天照皇大神(―あまてらす)、祇園大神(―すさのを)、そして更なる主祭神を祀り奉ずる、町の総鎮守。二月のはじめのこの日にいつもに増して沸き返るその境内は、長き歴史を湛える神社のこの日を飾る季節の例祭―節分(せつぶん)を飾る祭に詣でた、数多の人の歩みの影を余さず受け入れ賑わっていた。 桃色の衣服、長きスカート。途切れることなき人波のなかを、大きな影にその手を引かれて、一円玉を咥えながらに幼女はゆらりと歩いていた。 触れる唇またゆく吐息。うつろな瞳のその表情は、『不思議幼女』、『不思議ちゃん』、またはあるいは『馬鹿』たることを、脇の道ゆく傍観の者の見る目の奥に想起させうる。おそらくは実際に馬鹿なのであろう。 時刻はしだいに夕に近づき、西日の色またあたりを照らす。 途切れぬ民の足取り変わらず夕凪の色の包みゆく時、季節のひとつの分け目を礼した宮の空気も、凪節(なぎせつ)を迎えた。
|