囃子(はやし)の響き渡りゆく市街、いつもの街路を沸かせるこの日は、二日にわたって繰り広げられる五月(さつき)の祭(まつり)の一日目。思い思いの衣装をその身に祭行列が楽器をその手に傍では踊り舞い歌いながらに道路の真中を練り歩いてゆく。 幾つかの祭行列が控えの場所にしている広々とした公園。女子高校の生徒達による華麗なマーチングの行列が今にも出ようと動きを見せる。そんなところのかたわらで、少女は縦笛(たてぶえ)―リコーダーをその口に咥えて、空気塞ぎの穴に指を添え、ピロピロと音を奏でてうろうろ。 おでこのお面は町に名のある歴史ある銘菓―煎餅(せんべい)のもの。細い肩にかかり揺れる黒髪。 まず間違いなく女子小学生であろう。 時は正午を過ぎたばかりの夏日も思わすさつき晴れのもと、沸き返る町の喧騒のなかに吐息の奏でる音色はひとたび掻き消え、またひとたび高く鳴った。
|