古からの時代の流れを内に秘める歴史のあるその町は、年の五月のこの日にあって、普段にはない恐ろしいほどの数多の人々の影に埋め尽くされ、歩みゆき交う人々のその足取りのうちに大いなる賑わいのときを迎えていた。 町を沸かせているのは祭(まつり)であった。二日にわたって繰り広げられる名のあるその祭は一日目を終えて、この二日目の日の午後に、〆(しめ)の宵(よい)どきに向かって盛りの勢いをしだいに増してゆく。 幼女は、沸き返る町の総鎮守のこの社の境内の隅っこにひとり、そこに繰り広げられる祭の様子を座りながらに静かに見ていた。 市街からやってきてはそこを通り過ぎてゆく踊り装束の者達。その囃子(はやし)がひとたび響き渡っては、またひとたびと、見物の人々の影が埋め尽くす宮の境内を飾ってゆく。 夏めきの色をあらわに吹き抜けては返してゆく皐月(さつき)の風は、賑わいの波に揉まれて更なる熱を宿してはまた吹き抜けて、すずろにたたずむ幼い少女の髪をたまゆらに揺らすのだった。
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