普段は静かなそこ陸上自衛隊(りくじょうじえいたい)の駐屯地(ちゅうとんち)は、この五月の終わりの頃の休みの日にあって、いつもには無い数多の普段の人々の歩みの影を湛えていた。 町に響き渡る炸裂音。空を飛び交う軍用飛行機。この日の基地に開かれていたのは、この基地の興りから幾周年の時を記念する式典であった。 幼女はそのところのさなか、見物の人の数多の影がゆき交う大通りに立った。幼児(おさなご)に特有の丸みを帯びたその指の触るは小さな写真機(しゃしんき)―デジタルカメラであった。 幼児太りか、ちいさきながらも微妙に太めの姿態はそこに、しばらくのときをたたずんだのだった。 花見月(はなみづき)も過ぎ、皐月(さつき)も過ぎようとする季節の日曜日。身体に夏のはじめを感じさせもする昼の時刻の風が、あたりを吹き抜け、髪を揺らして、たたずむ身をまた撫でていった。
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