五月の町の日曜日。悠然と広がる敷地を市街のうちに据え置く、陸上自衛隊(りくじょうじえいたい)のある駐屯地(ちゅうとんち)。普段は静かにたたずむそのところ、春の盛りも過ぎてしばらくのこの休みの日の昼時にあって、まるで不穏の事態の勃発を知らせるかのような、烈々たる轟音と爆発の音を町の彼方まで轟かせていた。 基地の創始開設の記念の式典。戦車がゆき交い、ヘリがゆき交い、兵士の行列がマーチを奏でながらに通りを過ぎてゆく。傍観の人々を前に広場では模擬の戦闘が披露され、戦車の砲弾や自動小銃の炸裂の音が響き渡る。 幼女がうろちょろと動きまわるはそんな軍事基地のど真ん中だ。 幼児(おさなご)仕立ての服を揺らして、おしゃぶりを口に咥えて、歩いて、走って、ときに転んで泣いて。燦々(さんさん)と照らしつける日の射しを返して、陽炎(かげろう)すらものぼるかのごとくに夏めく昼のひととき。 歩みゆき交う来訪の人やここに生業を営む人の数多の大きな影を尻目に、路傍にしばしのときを遊びつつ、すずろに駆けまわり動く幼女の小影よ今度はどこへゆく。
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