私鉄の駅前からほど界隈の街。軒を連ねる数多の商店はアーケードの屋根を上に見ながら、蒸し暑い梅雨(つゆ)のある日の夕刻のひとときにいつもと変わることなく、数多の人々の足どりのうちに賑わいのときを迎えていた。 アーケードの屋根の途切れたところ。梅雨時ながら、そこに雨の落ちてくる気配はなかった。少女は道を横切って、飲料の自動販売機の傍らに歩みを進めて、それまでその口に咥えて愉しんでいた氷菓子を食べ終わり、濡れた袋をごみ箱に放り込んだ。 濡れ模様の掌(てのひら)を広げながら、すずろに来た道を戻ってゆく。脚を動かすそのたびに揺れるスカート。ともに揺れる黒髪の毛先は、背のなかほどにまで垂れて、歩みといっしょにさらりと揺れてはまた揺れた。 今日の学校を終えて残りの時を遊ぶ女子小学生。そうに違いなかろう少女はやがて、さっきまでいた本屋のなかへと姿を消してゆくのだった。 路地に数多の飲食の店、そして数多の性風俗の店が軒を連ねもするその街は、夜ともなれば、世に言う歓楽街(かんらくがい)に姿を変える色町。その宵闇に向かう時刻にあり、行き交う歩み人達の影またしだいに、映すその色を濃くしていった。
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