福岡県(ふくおか-)のほど中央部に位置する内陸の町である糟屋郡(かすや-)宇美町(うみ-)。神功皇后(じんぐうこうごう)がその子たる応神天皇(おうじん-)を出産した地であることにその名の由来を持つというこの町の、その北西部。 ほど近くに志免町(しめ-)との境界を、また山を隔てて大野城市(おおのじょう-)との境界を有する場所に、井野(いの)とされる街区がある。 町の南西部から流れる宇美川の支流により大きく南北に分かたれるこの井野街区の、その内の南側の区域の、井野山(いの-)と呼ばれる小山を裏手に据える集落に一社の宮がある。疫神社―読みは"えき"かそれとも"やく"であろうか。 いずれにしても疫神社とされているこの宮は、古い町の面影をたたえる集落に静かに鎮座している。
宮の由緒を示す事物は境内のどこにも存在しない。本殿と見られる拝殿奥の二小祠のうちの右の祠の額書によるならば、少なくともその祭神のうちの一神を少名彦命(すくなひこのみこと)とする宮であるようだ。少名彦命は疫病や災害を退ける医薬の神として多く祀られるものという。
また境内の右隅に建つ石塔によるならば、境内には薬師堂(やくしどう)が存在している。薬師堂といえば一般に医薬の仏とされる薬師如来(やくしにょらい)を本尊とする仏堂のことである。境内にあるという薬師堂は、境内右端の石の祠のことであろうか、あるいは拝殿奥の小祠のうちの左のそれのことであるのだろうか。いずれにしても、医薬の神たる少名彦命、医薬の仏たる薬師如来、斯くの如き神仏を祀り拝するという点にこの"疫神社"の性格たるものを見ることができようか。
所在は福岡県宇美町大字井野507。宇美町立井野小学校のわずか東である。 |