千の年月を裕に超える長い歴史を持つ真言の古刹は、この日の境内に数多の人々の参拝の姿を湛えていた。 境内の脇の広場にあっては、燃え盛る焚火を仰ぐ住職とその姿を見る参拝者の人波、そして時を同じく繰り広げられる豆撒き祭事の真っ最中。 それは、この古寺に年に一度の、節分の祭の所以であった。祭事を立ち見る少女、うろちょろとあわただしく走り回る幼女、豆を食べてにがい顔をする幼女、・・・そうした十色の参拝者たちの織り成す喧騒に包まれた広場から離れ、一風静かな本堂の脇で、桃の帽子と桃のリュックの幼女は、静かにたたずんでいた。 時に出店を眺めたり、また立ち尽くしたり、そうして本堂に誘われてゆく。暗所の奥に揺らめく光を受けて輝く本尊仏も、ちいさな参拝者のその姿にほほえみこぼされたるものなろう。 |