小倉薬師堂

小倉薬師堂の全貌此村の高き丘の上に大なる墓三十六あり。所々に散在す。是をあばけば其内は古墓なり。骸骨あり。何れの時人を葬りしにやしれず。』...

 以上は、古書『筑前国続風土記(ちくぜんのくにしょくふどき)』内の項目"巻之六目録 那珂郡 下"に『小倉村』として現れる、福岡県(ふくおか-)の内陸の小市春日(かすが)のほど北方に位置する、現小倉(こくら)街区についての記述である。

小倉薬師堂の本堂
本堂
 筑前国続風土記は、儒学・本草学者貝原益軒(かいばらえきけん)の編纂によって、宝永(ほうえい)年間(西暦1704-1710年)に完成に至った史書。これに現れるということからは、春日小倉という地の古くよりの存在を推し測ることができる。

北方から見られる小倉薬師堂
北方から
 昔は斯様、そして今には、比較的新しきことを思わせる分譲地と、古来を思わせる集落地との混在の様相を呈し、大字(おおあざ)のそれと一丁目から七丁目までの区域とで成される小倉地区。その内のちょうど中央部やや南寄りの二丁目の一角にある小さな社がこの薬師堂(やくしどう)である。

  • 堂種:薬師堂(やくしどう)
  • 本尊:薬師如来(やくしにょらい)
  • 創建:宝永元年(西暦1704年)

 一方を道端に、三方を民家に接するその境内には、黄金色の仏像を安置するところの本堂と見られる木造の堂と、その脇から続く石段の上に小さな地蔵堂、そして猿田彦(さるたひこ)と刻まれた石塔がある。

 その来歴を示すような事物は見られぬものの、堂に置かれた絵馬などの姿にそこそこの古さを見て取ることができる。堂は権現造り(ごんげん-)なる様式で、明治時代再建のものであるという。
小倉薬師堂の地蔵堂への石段
本堂脇の石段
小倉薬師堂の地蔵堂
地蔵堂
小倉薬師堂の『猿田彦』
文化14年(西暦1817年)の銘があるという『猿田彦』の石塔

薬師如来(やくしにょらい)...大乗仏教(だいじょう-)における如来(にょらい)の一であり、薬師瑠璃光如来(やくしるりこう-)とも称され、瑠璃光を以て衆生の病苦を救う、また無明の病を直す法薬を与えるものとして、医薬の仏としての信仰を集めている』...

史料に見られる『小倉薬師堂』
 春日市を描いた郷土史料の一つ『春日風土記』のなかで、山田稔という執筆者は、この薬師堂のことを、『小倉のお薬師さま』として次のように説明している。

小倉区松尾ストア裏の旧道に接したところに、参拝の絶えない古い薬師堂があります。近郷の人は、小倉のお薬師さまと呼んでいます。

 お薬師さまのことは『筑前国続風土記拾遺』の小倉村の条に、「村内に薬院と言う地有て、薬師堂あり。薬院有し地ならん」と記録されています。

 お堂は南を正面にした明治14年(1881)の再建です。よく見ると、立派な権現造りで独仏堂(薬師堂)としては、近郷一円で一番大きな建物です。権現造りは、神社に多く見られますが、お堂では大変珍しく、おそらく再建の棟梁が、江戸時代の神仏混淆の型式を残すために建てたのでしょう。当市では貴重な建物です。

南方から見られる小倉薬師堂
南方から
 創立は棟札(むなふだ)に宝永元年(1704)とあります。創立のためには、なんらかの信仰上の理由が必要ですが、その辺を『福岡県資料』から見ますと、宝永元年前の筑前国は、大風、大旱魃の災害が相続き、農民は極度に貧窮し各地で神仏祈祷と社寺再建を行ったとありますので、このお堂も、災害で傷ついた人達が平癒を願って建てられたものと思われます。

 お堂の中には、時代不詳の木造坐像「薬師如来」(95cm)が安置されています。像の技法は、木造の上に漆喰で固め、乾漆をほどこし、その上から金箔でみごとに仕上げています。薬師如来としては、近郷で一番大きな仏像です。

 薬師仏は、衆生の病根を救い、苦病を治す現世利益招来の仏として、古くから信仰されて、縁日は8日、18日、28日ないし晦日、地域によっては14日としますが、釈迦と結びつく8日とするのが一般的です。

 また、薬師仏は眼病の仏として、あらゆる人に信仰され、眼病のもとや、ご利益をうけた同志が集まって講をつくりました。

 この薬師さまも、病気を治してくださる仏として有名で、今でも近郷一円に篤い信仰があります。

 とくに目が悪くなったときは、仏の頭と目をさわり、半紙に性別または名前と、年齢の数の病名「め」と書いて堂内にはりつけ御願を立てます。治れば線香と水を供え拝みます。

 最近では、有名大学進学祈願が多いのも時代を反映した信仰でしょうか。』...

 ほど近くに奴国の丘歴史公園を中心に広がる国指定史跡岡本(おかもと)遺跡、また伯玄社遺跡などの重要な遺跡を擁する地区にあって、堂は開発の波に呑まれゆく街路のさなかに今も静かにたたずんでいる。
所在は福岡県春日市小倉2丁目60番。県道31号(福岡県道31号福岡筑紫野線)と県道56号(福岡県道56号福岡早良大野城線)との交差地点の南西方。ほど近くに浄土真宗の寺院光照寺、わずか南東地点に伯玄児童遊園、およびけしノ実児童遊園などがある。

薬師堂|福岡県春日市|紀行道中写真館

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