光明山摂取寺

光明山摂取寺の三門 地は九州北方、福岡県。

 広く知られる“博多の町”の呼び名を受け継ぐ県都・福岡市の「博多区」は、福岡市の内のほど東部から南東部にかけて今に広がり、御笠川の流れを内に湛えて、古の時の痕跡をもその端々に湛えて現時にある。

 この区の東南端にあたる場所に、「立花寺」(りゅうげじ)という町がある。

平野のはずれの山麓の町
 博多区の南東にあたる場所には、“席田平野”(むしろだ-)とかつて呼ばれた平野が広がっている。御笠川の東側に広がるこの平野は、今にはその大部分を空港の用地、すなわち福岡空港の用地とし、時に飛び立ちまた着陸する種々の航空機の轟音を上に、主に東方に連なる小山の麓に散在する集落地を抱えている。これら集落地は古くは「席田郡」という郡に属しており、立花寺もまたそうであった。

“龍華寺の六坊”
 古くは「立花寺村」という一個の村であった立花寺は、古くこの地に開かれていたという、ある寺に呼び名の由来を持っている。名を“龍華寺”(りゅうげじ)と称した寺である。今には無きこの「龍華寺」なる寺は、その昔、この地に六つの子院を有していたという。この地―筑前の近世の学者らの言によれば、次のような六ヶ寺がそれである。
  • 真福寺(しんぷくじ)
  • 光福寺(こうふくじ)
  • 攝取寺(せっしゅじ)
  • 法行寺(ほうぎょうじ)
  • 光明寺(こうみょうじ)
  • 金剛寺(こんごうじ)
 “龍華寺の六坊”と呼ばれたこれらの寺は、兵火に襲われたことで、天正年間(西暦1573-1591年)のうちに焼失の運命を辿ることになったが、幾ヶ寺かながら、その後にいたって再興の時を見た。

 「摂取寺」(せっしゅじ)―浄土宗、“遍照院”(へんじょういん)、“光明山”(こうみょうざん)と号するこの寺は、再興を経た“龍華寺の六坊”のうちの一坊、立花寺の町の今に残った、「攝取寺」の後裔にあたる寺である。
光明山摂取寺の門石塔
門石塔

  • 寺名:摂取寺(せっしゅじ)
  • 院号:遍照院(へんじょういん)
  • 山号:光明山(こうみょうざん)
  • 宗派:浄土宗
  • 開基:行明
  • 開山:永禄6年(西暦1563年)以前

光明山摂取寺の本堂
本堂
伽藍
 小山を背後に形成された、緩やかな丘陵の集落、立花寺。その中の一角に、石塔を脇に据える三門、その先に座す一宇の本堂納骨堂、庫裡(くり)に加え、境内に散在するいくつかの墓所が、併せて伽藍を形作る。裏手には立花寺の氏神であろう日吉神社が鎮座し、同じく“龍華寺の六坊”の一つにあたる浄土真宗「法行寺」の伽藍を間近に見据えている。

古書に見られる摂取寺
光明山摂取寺の納骨堂
納骨堂
 福岡藩士の青柳種信は、その編纂書『筑前国続風土記』の「拾遺」のなかで、「席田郡」に触れるうちに「攝取寺」を次のように記している。

光明山遍照院と號。浄土宗鎮西派博多西方寺末寺也。開基の僧を行明といふ。寺傳に行明ハ永禄六年筑後國御井郡藤山にて寂すといへれハ、其以前の開基なるへし。昔龍華寺といへる梵刹ありしハ則此所にて、子院六坊の其一ッなりしか、天正の頃兵火に罹りて焼失せり。當寺は其後再興せしもの也。”...

 開基の僧「行明」が没したのが永禄6年のこと、したがって開山はそれより前になる、・・・。永禄6年、すなわち西暦1563年。「室町時代」と呼ばれる時期である。

 続けて“龍華寺の六坊”を次のように記している。

夕凪に沈む光明山摂取寺の境内
夕凪に沈む境内
かの六坊といふハ、真福寺、光福寺、攝取寺、法行寺、光明寺、金剛寺也。此内攝取寺ハ今浄土宗となりて即當寺也。法行寺ハ真宗となりたり。真福寺ハ金隈村の田圃の字に在。且光明の二字ハ此寺の山号及ひ下月隈村阿彌陀寺の院号に取れり。金剛寺ハ台叡山と号せしといひ傳ふれハ、昔時は天台宗の寺なりしなるへし。”...

 「下月隈村」(しもつきぐま-)とは、立花寺の北に広がる「月隈」の当時の村域を指しており、「阿彌陀寺」は、摂取寺と同様、そこに“阿弥陀寺”と称す寺として、今も確かに存在している。

開基僧「行明」
 行明は博多「住吉村」、すなわち今の福岡市博多区住吉の「妙円寺」の住職を務め、「浄土三部経」の“四十八願”に因んで四十八ヶ寺の建立を企図し、筑前から筑後の地にまでわたって数多の寺を開き、この地の浄土宗の復興に尽力した僧である。

 その開基の寺は本寺「摂取寺」のほかにも、諸岡の西専寺、須玖の無量寺、今の久留米市「藤山町」にある専修寺、今の古賀市「新原」にある浄土院など、各地に遺され、今もこの世にそれぞれの時を刻み続けている。
所在は福岡県福岡市博多区立花寺2丁目7番3号。ほど近くに、西南戦争時の戦没者を供養したものという地蔵堂(わずか北方)、月隈小学校(北方)、金隈遺跡公園(南西)、仲畑地禄神社(南方)などがある。

|福岡県福岡市|紀行道中写真館

Copyright (C) 2006-2013 Ψ, all rights reserved.
Powered by w.nsview.net/